父の詫び状 [著書]

IMG_8913.jpg

昭和53年の執筆というと、もう随分古い作品となるが人間の感情の

機微に新旧はない。筆者の幼い頃からの平凡な生活が短編にとり

まとめられている。そんな1節「車中の皆様」のほんの一編を紹介し

よう。”中年の運転手が話しかけてくる。「これから帰って何すんの」

「そうねえ、こういうとき男だったら行きつけのバーでいっぱいやって

帰るけど女は不便ねえ。シャワー浴びてビールでも飲んで寝るわ」

チラリと本心を洩らしながら帰り支度をはじめた。夜タクシーで帰る

ときはいつもそうするように左手にアパートの鍵、右手に五百円札を

握って「ご苦労様」と料金を渡す。運転手はカスレタ低い声でこう言

った。「いいのかね」「いいわよどうぞ」たかだか40円か50円のチッ

プである。念を押すほどの金額ではない。しかし運転手はもう一度念

を押すのである。「お客さん本当に真に受けていいのかね。」「大げ

さに言わないでよ」と笑いかけてハッとする。右手に500円札が残っ

ている。間違えてアパートの鍵を渡してしまったのである。”今はなき

筆者のそそっかしさが偲ばれて面白い。


nice!(17)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 17

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

新世紀枯山水の日本庭園 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。