上高地６時

上高地６時、梓川の清流は今朝も
穏やかな音を立て、浮かぶ水鳥
は右へ左へと揺れて心地よさそう。
左腰の痛み僅かにあるが歩く
うちには取れるだろう。

2時間、徳沢園周囲はテントだらけ。
名物のカレーを食べて先を急ぐ。

涸沢周辺

涸沢の残雪がいつになく少ない。例年
万年雪がもう少し張り出していて
ヒュッテに向かう道は固い雪で覆
われていたはずだ。そのせいか梓川に
至る雪どけ水が枯渇している。
もう１つの変化は猿が多くなった。
目線が合った先頭の猿に、何してんだ
そんなとこで、と言うと歯をむいて
威嚇して来る。頭上の木を揺すり援軍
までやってきて全猿の目線がこっちを
向く。ぞ〜とするとはこのことか。

北穂

この前は小雨もあって
視界2m寒さの中早々に引き上げた。
今日は違う。槍の向こうも周囲ぐるり
と遮るものがない。南岳から足下に及ぶ
大キレット、北穂から奥穂高への
ギザギザした縦走路も、そして岸壁を
よじ登るクライマーもが豆粒のように
見える。

そまのや

少し無愛想なオヤジとはいえ
穏やかな自然の中の沢渡温泉
そまのやホテル、突然訪れた
割にはいい感じ。渓流の音を聞き
四六時中流れる湯量豊富な温泉
にくつろぐ。それにつけても
昨晩の混み合った涸沢小屋、緑
上段16番のイビキ合奏はひどかった。
翌日は寝不足で北穂に登り思い迷いながらも
折り返して下山した。よく歩いたというより
よく歩けた。上高地からタクシー4200円
出しても悔いはない。これで朝食イワナ
でも出れば完璧だが。

スイカの名産地

158号線を下り新島々を過ぎる頃
からスイカが道沿いの露店に並び
幟がはためく。そう、ここはスイカ
の名産地「波田」だ。夏冬の寒暖差が
そして地質がジャリジャリした
特有の味覚を生みだすのだろう。
毎年寄る露店のおばさんはこの道
15年のベテランで今朝もタップリ
試食のサービスにあずかった。

三つ峠

たまに雪景色も良かろうと意を
決してやってきた。

のだが、
登山口駐車場、直前の急斜面が
凍結に阻まれる。この坂で路肩に
嵌ると厄介なことになるし、迷った
挙げ句に断念。

青空と樹氷の合間から富士山が見え
る。

奥穂-前穂-重太郎新道

・谷間の岩桔梗

涸沢ヒュッテで知り合った埼玉県の川崎氏。

有難くも初のコース、ザイテングロードの

先導を賜るが氏より遅れること30分、奥穂

小屋にたどり着く。評判の女将はブルーアイ

の美人でテキパキと事務処理をするが何故か

寝床番号が重複し後刻一苦労。

　・前穂-奥穂

未だ暗い中、ヘッドランプを点けて奥穂高岳

取りつきのハシゴを上る。長野県警注意情報

に従いストックをたたみ両手で岩を掴んでペ

ンキマークを探す。昨晩から気掛かりなこの瞬

間でもある。

　・まじかにに迫るジャンダルム

奥穂岳山頂で迎える朝焼けに照らされて槍ヶ岳

から続く穂高の峰が雲海を従えている様を見る

と体中の不浄物がジュンと溶けていく。

・重太郎新道

願ってもない青空のもとの吊尾根登山道は

このコースの醍醐味でもある。遥か彼方に

御嶽山の噴煙も見える。　

　・ザイティングロード

昨晩の雑談でベテラン登山者に問う、「なぜ

そんなに何度も怖い思いをしてジャンダルムを

往来するのか」と。

氏が考えながらボソッと言うには「思いに至

った時から自らへのプレッシャーとそれを苦

労して達成したときの感激と喜びでしょうか、

と。

上高地６時半

穂高の単独行はリスクも伴うがお天気を

味方に歩行速度も休憩も自由気ままな点が

いい。転ばぬように急がず焦らずを肝に銘

じ、それでいて少しの挑戦心を科して歩く。

横尾、9時半

普段は歩くこともめっきり減ったが今年も

なんとかリュックを背負って上高地から

涸沢までの16キロを歩いた。腰や肩の痛みは

残る者の高原の風に当たりながら梓川源流の

景色を愉しめる健康に感謝したい。

余録

山小屋は天井も低く、混雑してくると横になる領域の

確保さえ難しくなる。今回も、夜間フト気付くと生暖か

い腕が背中に伸びて来る。押し返そうとブロックして

耐える。隣人もゴソゴソ動く気配はしたがなんとか守

りえたかと安心する。そして、目覚めて唖然とする。

T字型に乱れたのは我が身だったのだ。ひどい寝相に

反省しきり。

下山

涸沢ヒュッテの朝食は5:00から6:00までと

早い。尤も夕食後は疲れもあって早く寝るので

自然早く目覚める。空は明るいようでもすぐ

に雲が現れ、度々変わる景色は見ていて飽

きない。

正に不順な天候だが雨が降っていない分だけ

ありがたい。昨日、雨の中苦戦した登り道を

今朝は周囲を眺めながらの余裕の下山だ。

カラマツソウの群生。果実に渦状に巻いたチ

ングルマのヒゲが水気を吸って揺れている。

このヒゲが草紅葉となるのもあと僅かのこと

だろう。

雨後の森はどこもたっぷり水気を蓄えていてコケ

や葉に生気が漲っている。小鳥のさえずりや時折

横切るガマ蛙に会うのも山道散策の楽しみでもある。

ちょっと遠回りだが対岸の明神池をめぐり、

クマ笹の林を抜ける。野生の猿もここでは人目も

はばからず遊んでいる。

餌をもらえないのが分かっているから、寄って

来ないし物欲しそうな様子も見せない所がいい。

リュックを下ろして寛ぐ場所には事欠かない。

終着点もわずかとなるにつけ休憩も増える。

雨が滴っていた屏風岩の表情も今日は穏やかに

見える。再び腰を慰めマッケンジー体操を念入り

に行う。

膝の屈伸とストレッチをして非常食のパンを平

らげストックをたたむ。あ帰ろう。